2026.08.24

建設業界では、担い手不足や熟練技能者の高齢化が課題となっています。
インフラDXの流れの中で建設テックへの注目も高まっていますが、現場に定着する技術はまだ多くありません。
そうした中、建設用3Dプリンタを公共工事の現場へと広げてきたのがPolyuse(ポリウス)です。
実際の現場での手応えと、これからの展望をPolyuseの岩本代表に伺いました。
株式会社Polyuse
代表取締役/共同創業者
岩本 卓也 氏
建設業界のDXの現状をどう見ていますか?
岩本 卓也 代表取締役(以下、岩本氏):
端的に言うと、進んでいる会社はとことん進み、進んでいない会社はほんとに進まない。
建設業界も一括りではなくグラデーション(まだら模様)です。
建設業界全体では他業界より「DXをやらねばならない切迫度」が違うようにも感じられますが、これは「土木工事は自然や土地形状などコントロールできない制約条件が多く、DX化しにくい」と思われている側面もあるからです。
建設DXの進捗状況は、どう見るべきですか?
岩本氏:
書類、積算、現場管理、会計、コミュニケーションなど個別業務ごとに分けて見るべきです。
会計系はかなり進み、現場とのチャット等のコミュニケーションもかなりDXが浸透してきました。
一方で、遅れが大きいのは施工や直接工事費の積算に関わる領域だと体感しています。
私たちはそこを狙っています。
土木テックが少ない理由は何だと思いますか?
岩本氏:
本当に土木領域は少ないです。建築テックはまだ数がありますが、いわゆるシビルテックはもっと少なく、参入しても早く消えてしまう印象があります。
大きな理由は「距離感が遠い」ことでは?と考えています。
建築や不動産は生活者としてイメージしやすく課題も想像しやすいですが、土木分野は一般的には分かりにくく、異分野の起業家が入りにくいイメージがあるのかもしれません。
ただ、異分野から入ってくる人数が増えないと、当然スタートアップ企業も増えません。
それでも土木市場は魅力的ですか?
岩本氏:
この市場はブルーオーシャンです。
マーケットが大きく、一度市場に入り込めれば代替されづらい業界でもある。
ぜひすすめたいですし、一緒に活性化していきたいです。
ただ、土木建設業界はインフラに直結する非常に課題が重い領域であり、そこに「挑まないと」いう思考にならないこと自体が起業家の課題だと思っています。
Polyuseがこの分野で先行できた要因はなんだと思いますか?
岩本氏:
振り返ってみるとかっこいい言葉ではなく、われわれは単純に「粘り強く泥臭くやり続けたから」だと思います。
この業界は品質・実績・バックデータの積み重ねを経て、始めて大きく動く業界です。
現場関係者の意見を聞き、腐らずに愚直にやり続けて実績をためてきた。
施工実績は稼働中も含め約300件以上あります。また、国・大学・研究機関と各種施工データを積み上げ、安全性を確認し、指針や試験項目作りもしました。
これらの様々な積み上げが、結果的に同分野での参入障壁になり、自社のシェアが94%になるまで成長できました。
.jpeg)
ゼネコン等の施工会社・ユーザー側の協力も大きかった?
岩本氏:
本当に大きかったです。
協力いただき引っ張ってくださった施工会社さんが多くいて。
創業前、京都の吉村建設工業さん(本社:京都市中京区)にお会いする機会があったんですが、その時に「集水桝をやってみるなら支援する」と提案していただき、実証テストする民間工事の現場まで用意していただいた。これが当社の第1号案件です。
他社も紹介していただいたことで案件が広がるなど、業界の方々に引き上げてもらった感覚が強いですね。
なぜハード販売だけでなく施工まで入り込むのですか?
岩本氏:
私たちは元々、海外での3Dプリンタ活用のニュースを見て「面白そう」と思ってはじめた "建設3Dプリンタの製造会社" です。
ただ、結局製造した3Dプリンタをどうやったら建設市場で使えるか、広めていけるのかを考えているうちに今のカタチになりました。
建設市場で普及させるということの本質は"工法を作る"ことだと考えています。
」の写真.jpg)
岩本氏(続き):
コンクリート打設には元々、現場打ちとプレキャストという2つの工法があります。3Dプリンタはいわば「第3の工法」。
全く新しい工法を普及させるには、施工方法、形状、材料の供給網、データ連携(ソフトウェア)、積算方法まで、全部自分たちで決めていく必要があるんです。
必要なことは全部やらなければいけない、という状況でしたね。
おかげさまで今では、施工実績はほぼ全都道府県に広がっています。発注者としても各地方整備局・開発局・総合開発局、農水省、学校、鉄道、高速道路会社で実績があります。
工法を作ること、積算方法を定めるという点で、大きな契機があったそうですが?
岩本氏:
推奨技術から毎年一部が暫定歩掛化される枠組みがあって、そこに採択され、2026年度よりNETIS暫定歩掛にも掲載されました。
対象工種は擁壁・集水桝・階段ブロック等で、歩掛や材料算定の考え方を整理して採択していただいた形です。
これはひとつ大きな実績だと思っています。今後は本基準への格上げや、積算システムへの実装まで進めていければと考えています。
工法がかなり普及してきた今もなお、ハード販売を続けている理由は?
岩本氏:
全国の供給・流通網を作るためです。
お客さまが欲しいのは、3Dプリンタ単体ではなく最終的な"製作物"です。
私たちには、全国に工場を建てるような資金も人手もありません。
プレキャストメーカーやゼネコンに当社のマシンを保有してもらい、当社に注文が入ったら、最寄りのマシン保有工場で製造・出荷できるような流通体制が産業として合理的なのです。
Polyuseの企業ステージが上がった転機はどこですか?
岩本氏:
いくつかあります。
民間工事の第1号案件も重要でしたが、公共工事の第1号案件(高知県の国土交通省発注現場で適用)も大きかったです。公共工事でも受け入れられたことは大きなハードルを越えた感覚でした。
重要構造物(フーチング)を作れたというのも大きな出来事でした。
そしてもうひとつ言えることは、土木学会での「建設用3Dプリンタに関する技術指針」策定に携わったことでした。
大学の先生や業団体の方、施工業者の方々との出会いも節目節目で運もあり、ここまでこぎつけられました。本当に業界の人たちに引き上げてもらってきたなと実感します。
本格導入までの一番の壁はなんでしたか?
岩本氏:
それは安全性の担保です。やっぱり公共工事は命を守るインフラなのでそれ以上でも以下でもない。
施工者側の責任も、発注者側の責任も重い。
安全性を分解すると、強度、積層模様の扱い、寸法・品質管理の基準など、結局は品質に関わる議論です。事故が起きればいままでの積み上げが一瞬で失われますし、最重要です。
3Dプリンタ導入初期の反応はどうでしたか?
岩本氏:
最初の実証実験はほんとうに最悪でした。真夏の酷暑により、樹脂部品が熱で溶けてマシンが壊れ、徹夜で手で押しながら何とか造形しました。翌朝の見学会でいざ水を入れたら水漏れが起き、現場に沈黙が起きました。(笑)
出典:Polyuse提供資料
しかしそれでも信じていただいて、当社としても改良を重ねてきたことで今があります。
ただその後も、できあがった製品の見た目が「汚い」「このまま商品になると思うな」など厳しいご意見もよくいただいていました。
材料の配合で強度は満たしているのですが、従来の型枠を使用して作られた製品はツルツルの見た目でしたので、見慣れないこともあり「汚い」という感想になったのだと思います。
ただ、今では"こういう模様だ"という理解が進み、土木利用では模様の指摘は減っています。
3Dプリンタ施工が広がると、仕事はどう変わっていくと思いますか?
岩本氏:
現場管理の内容や、会社としての優位性の判断が変わると思います。
新たな3Dプリンタという "工法" を使った経験を経て、3Dプリンタが選択肢の一つになります。
何でもかんでも3Dプリンタに変えたらいいわけではない。
職人さんの予定や工期などその時々の現場条件に応じて、「現場打ち」・「プレキャスト」・「3Dプリンタ」をどう組み合わせると最適なのか、この現場で使えるのか、じゃあどれをチョイスすればいいか、と考えることが出来るようになります。
工種・工法の数が減少すれば工程管理上の不確実性も低減され、間接費を含めた総合的な最適化の検討が可能となります。
様々な選択肢・アイディアが湧く会社・人が生産性を上げる方向性になっている。
発注者へ形状変更やメンテナンス性の改善提案など、その時々の最適解を見つけられるかどうかがこれからの仕事・力量の差になっていくのではないかと思います。
一般的には3Dプリンタの施工はカーボンニュートラルへも寄与できるといわれていますが?
岩本氏:
型枠廃材が出ない、形状の自由度が高いのでモルタル材料の全体量を減らせる、工期短縮・工数削減にもつながる。結果としてカーボンニュートラルには寄与すると考えています。
ただ現実的には、定量的な全体把握は難しく、個別に計算した例が少しある程度です。
現状の顧客ニーズはカーボンニュートラルよりも「とにかく人手が足りなくて、工期までに工事を終わらせるのが難しい」ということで、まずはそこへの対応に注力している形ですね。
直近3〜5年の戦略は?
岩本氏:
今は全国にマシンを配備することです。
製品の輸送距離がコストに直結するので、必要な分を必要なだけ、必要な形状で注文でき、近くで作って届けられる供給網づくりが重要で。
すでに配備は約30台、販売は約60台まで進んでいて、まずは100台配置を目標にしています。
今後攻めていきたい難しい領域はありますか?
岩本氏:
橋脚の巻き立て補修工事です。橋脚ごとに形状が1本1本違い、基準も厳しいため突破が難しい。型枠や施工も大変な工事・工種なので、施工データをためて改良しぜひ突破したい領域です。
若手や起業家に伝えたいことは?
岩本氏:
建設業界は非常にビッグマーケットで、ニーズもある。やりたいなら、ぜひ来てほしいです。まずは現場を見て、リアルを知ってほしい。
失敗を避けるより、顧客の声に耳を傾けて、真摯に向き合うことが一番大事だと思います。
「粘り強く泥臭くやり続けた」——岩本氏がそう振り返るように、建設用3Dプリンタの社会実装は、華々しい技術革新というより、現場との地道な対話と実績の積み重ねによって切り拓かれてきたものでした。
2026年度に国土交通省の新技術積算基準類に採用されたことで、その歩みはひとつの節目を迎えました。公共工事の積算基準に組み込まれるということは、3Dプリンタ工法が「特別な試み」から「選べる工法」へと正式に位置づけられたことを意味します。インフラを支える技術として、その存在感はこれからさらに増していきそうです。
「工法を作ることが本質だ」という言葉が示すように、Polyuseが切り拓いてきたのは単なる機器の普及ではなく、新しい施工の選択肢そのもの。担い手不足が深刻化する建設現場において、3Dプリンタがその答えのひとつになっていくのか、これからの展開が楽しみです。
(情報は2026年3月取材時のものです。)

エラーが発生しました。
次のいずれかの理由が考えられます。