2025.09.19

#04 建物のライフサイクルCO2をめぐる状況②

2025年9月19日公開

 昨今、日々の生活やニュースの中で、気候変動、脱炭素、カーボンニュートラルといった言葉を聞く機会が増えてきました。これらの言葉は、建設分野においてもいま非常に注目を集めているテーマでもあります。

 本コラムでは、建設分野における脱炭素、カーボンニュートラルに関する役立つ情報や気づきとなる話題(制度動向、技術革新、取組事例、用語解説など)を10回にわたり紹介していきます。

はじめに

 前回のコラムでは、建物のライフサイクルCO2排出量の算定、削減をめぐる海外の動向について紹介しましたが、今回は国内の動向を紹介します。
欧米を中心とした建築物のライフサイクル全体から排出されるCO2をはじめとする温室効果ガス(GHG)の算定・削減に関する取り組みの拡がりを受けて、日本においても建物のライフサイクル排出量の削減に向けた議論が始まりました。

算定に関するガイドライン・ツール

 2022年12月に、一般財団法人住宅・建築SDGs推進センター(IBECs)が中心となり、産官学の連携により「ゼロカーボンビル(LCCO2ネットゼロ)推進会議」が設置されました。
ゼロカーボンビル推進会議は、ライフサイクル全体のCO2排出を実質ゼロにする建築物(ゼロカーボンビル)の普及・促進を図るために、排出量算定に関するマニュアルやツールの整備を進めています。

 このゼロカーボンビル推進会議のもとで、建築物のライフサイクル全体のGHG排出量を算定するための「建築物ホールライフカーボン算定ツール(J-CAT/読み方:ジェイキャット)」が開発され、2024年5月に施行版が、同年10月に正式版が公開されました。J-CATは、算定のためのマニュアルとExcelの算定ツールから構成されています。

 J-CATが開発される以前には、建物のライフサイクルCO2を算定するためのガイドライン・ツールとして、(一社)日本建築学会「建物のLCA指針」(一社)不動産協会「Scope3算定を行う建築工事発注事業者のための建設時GHG排出量算定マニュアル」がありました。
J-CATはこれらのツールの内容、ノウハウの一部を活用して開発されたツールですので、内容にある程度共通する部分があります。
今後、日本で建物のライフサイクルGHGを算定する際は、J-CATを使用して算定するケースが多くなると考えられます。

★★ J-CATの主な特徴 ★★
1. 活用目的に応じて、3つ算定法(簡易算定法、標準算定法、詳細算定法)を提供
2. 建物のホールライフカーボン(ライフサイクルカーボン)の算定が可能
3. 簡易的な金額ベースの算定ではなく、物価高等の影響を受けない資材数量ベースでの算定が可能
4. デフォルト値(冷媒のフロン漏えい率、更新周期、修繕率など)が充実
5. 多様な活用を想定した詳細な算定結果を表示可能

出典:一般財団法人住宅・建築SDGs推進センター(IBECs)建築物ホールライフカーボン算定ツール(J-CAT®)

制度化の動き

 2024年11月、建築物のライフサイクル全体において発生するCO2(ライフサイクルカーボン)の削減に関し、必要な施策を総合的かつ計画的に推進するため、内閣官房、国交省、経産省、金融庁、環境省、文部科学省などの複数の省庁が連携するための「建築物のライフサイクルカーボン削減に関する関係省庁連絡会議」が発足しました。
この会議では、具体的な制度化に向けた議論がされています。

 2025年2月には、「GX2040ビジョン~脱炭素成長型経済構造移行推進戦略 改訂~」が閣議決定され、その中で、建設施工に係る脱炭素化の促進、環境配慮建材が評価される環境の整備、建築物のライフサイクルCO2の評価・削減を促進する制度構築について記載されました。制度化に関しては、2026年の通常国会で関連法案が提出することを目指すと言われています。

 2025年2月18日に閣議決定された「地球温暖化対策計画」においても、住宅・建築物のライフサイクルCO2の算定・評価を促進する制度を構築する、といった内容が記載されました。また、関連するGX市場の創造についても記載されています。
同時に、「政府実行計画」の中でも、建築物のライフサイクル全体を通じたGHG削減に努めるといった内容とともに、GHG排出削減につながる建材の選択などの具体的な対応についても記載されました。

 これらを受けて、2025年6月には国交省が「建築物のライフサイクルカーボンの算定・評価等を促進する制度に関する検討会」を立ち上げました。
2025年9月現在、5回の検討会が開催され、制度化に向けた具体的な議論がされています。

 2025年度に入り、建物のライフサイクル全体のCO2算定・削減に関する制度化に向けた議論が加速しています。2028年頃には算定・報告の義務化が始まると見られています。
建設会社やデベロッパーが、自社が建設する建物のCO2排出量の算定・報告にすぐに対応することは難しいですので、制度化を見越して余裕をもったスケジュールで準備を進めるのがよいでしょう。

さてここまで、建物のライフサイクルCO2をめぐる国内外の動向を紹介してきました。
次回のコラムでは土木・インフラ工事のCO2算定に関する話題を紹介します。次回もお楽しみに!(10月公開予定)

著者紹介
針生 洋介

Sustineri株式会社 代表取締役 針生 洋介

大学院で気候変動に関する研究に従事。
卒業後は、シンクタンクで気候変動対策の政策実施支援やカーボン・オフセットの指針・ガイドライン策定などを担当。
さらにコンサルティング会社にて、気候変動対応の戦略策定や実行支援に携わる。
2021年、Sustineri株式会社を設立。建物のCO2排出量算定サービスの開発・運営を行う。

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