2026.03.25
本連載コラムでは、全10回にわたり建設分野における脱炭素・カーボンニュートラルに関する役立つ情報を紹介してきました。
最終回となる今回は、これまでの掲載内容を踏まえ、社会動向や関連制度、国内外の先進企業(大成建設、竹中工務店、VINCIなど)の事例から特に参考になるポイントや示唆をまとめたいと思います。
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まず、建設分野を取り巻く制度・政策の動向を整理します。
● ISO14040/14044を中心に国際基準が整備されている
● 欧州では、EN15978などを基盤に各国で法制度化が進展
● オランダ(2013年)、フランス・デンマーク・フィンランド(2022年以降)などで建物のLCA・CO₂算定・報告義務化
● 改正EPBD(建築物エネルギー性能指令)により、2028年から延床1,000㎡超の新築でLCA義務化予定
● 2030年にはすべての新築建築物に対象拡大
● 北米では州・市単位でLCAや低炭素材利用を義務化
(例)アメリカ:カリフォルニア州、カナダ:バンクーバー、トロント
● 2022年にIBECsが中心となり「ゼロカーボンビル推進会議」設立
● LCA算定ツール「J-CAT」は2024年に公開
● 2024~2025年にかけて政府が制度化議論を加速
● 2028年頃の算定・報告義務化が想定される
● 「品確法」改正(2024年)により、発注者の脱炭素配慮が明確化
● 国交省が「インフラ分野GHG算定マニュアル案」や「脱炭素アクションプラン(2025年)」を策定し、建設機械・コンクリート・施工技術の脱炭素化ロードマップを提示
前述の動向を踏まえると、今後の方向性は以下のとおり整理できます。
材料・施工・解体・再資源化まで含めたカーボンマネジメントが必須となる
2028年の制度施行を見据え、建設事業者は「早期の体制整備」と「J-CAT対応」が求められる
欧州のEPBD・EN15978対応を踏まえた算定基準との互換性が競争力の鍵となる
排出原単位データベースや算定ツールの整備が、企業間比較や資金調達(ESG投資)に直結してくる
公共工事・民間開発の両面で、環境性能が「入札・評価基準」となる流れが進む
この章では、過去のコラム内で紹介した企業の取組から実務に生かせるポイントを整理します。
ポイント:
● 日建設計と共同で「建設時GHG排出量算出マニュアル」を策定(2022年)
● 工事金額ベースの簡易算定から、部材積み上げ方式の高精度算定へ移行
● 発注物件で試行しつつ、業界全体への展開を目指す
● Scope3を含む脱炭素管理体制を構築し、J-CAT開発にもつながる
示唆:
三井不動産は「算定の標準化」を通じ、脱炭素経営を自社内の取組から業界全体の仕組みへ拡張しています。
データ基盤を制する者が、サプライチェーン脱炭素をリードする時代になってくるかもしれません。
ポイント:
●「T-LCAシミュレーターCO₂」で建物ライフサイクル全体のCO₂を簡易算定
● 設計段階から削減効果を評価し、顧客提案に反映可能
● SBT認定・Green Target 2050に基づく明確な数値目標を設定
示唆:
「見える化」は単なる効率化ではなく、環境目標を実現する経営インフラ。
ツール開発が企業戦略と直結する、脱炭素の"実装段階"に入っています。
ポイント:
● 「ライフサイクルCO₂ゼロ建築への挑戦」をマテリアリティに設定
● 自社開発の「Z-CARBO」で建物のホールライフカーボンを可視化
● 設計・施工・運用データを統合し、顧客の脱炭素経営を支援
● 2030年Scope1+2 ▲46.2%、Scope3 ▲27.5%、2050年カーボンニュートラル目標
示唆:
脱炭素を「技術課題」ではなく建築の本質的価値づくりとして再定義しています。
"作品"としての建築を通じ、社会と共に持続可能な未来を描く企業像を体現しています。
各社に共通するキーワードは、"LCAによる見える化"と"全工程でのCO₂マネジメント"です。
それぞれ異なるアプローチを取りながらも、脱炭素時代における建築の在り方を提示しています。
今後は「施工品質」に加え、「環境品質」も求められる時代に入っていくと考えられます。
ポイント:
●運用段階の影響を踏まえつつ、全ライフサイクルでの評価を重視
●設計初期からLCAを導入し、前工程から解体再利用まで一体で評価
●木材・低炭素コンクリート・再生材料などを組み合わせて活用
●LCAツールや評価制度、目標設定など、実務で活用できる体制を整備
●大学研究機関と連携し、継続的に研究開発へ投資
示唆:
脱炭素は「設計で決まる」という考え方が、すでに実務として定着しています。
ライフサイクル全体を前提とした設計と、それを支えるデータ・仕組みの整備が不可欠です。
また、VINCIではフランスの環境規制(RE2020)への対応として、入札段階からLCAを組み込むなど、制度と実務が一体で運用されています。
さらに、SBTに基づく排出削減目標の設定や、炭素排出量管理ツール(NExT等)を活用した意思決定への組み込みなど、LCAを"評価"ではなく"経営・投資判断の基盤"として活用している点も特徴です。
海外で進むこうしたLCA主導の設計・運用の考え方は、日本においても応用可能です。制度や市場の違いを踏まえつつ先進事例を取り入れることで、建築の価値をライフサイクル全体で最適化する取り組みが求められます。
本連載コラムでは、建物のライフサイクルCO₂排出量の評価・削減対策を中心とした、建設分野における脱炭素・カーボンニュートラルに関する情報をお届けしてきました。
近年、建設分野においても、制度整備や技術開発の進展により、脱炭素への対応は着実に具体化しつつあります。特に、LCAを活用した評価や設計段階からの取り組みの重要性は、国内外の動向から見ても、今後さらに高まっていくものと考えられます。
また、各企業の取り組みに見られるように、脱炭素は個別の対策にとどまらず、データ整備や算定手法の標準化など、業界全体の枠組みづくりへと広がりつつあります。こうした動きは、今後の制度化とも相まって、建設分野における新たな前提条件となっていくことが想定されます。
本コラムが、皆様の業務や今後の検討にあたり、少しでも参考となれば幸いです。
(注)今回のコラムに記載した情報の出典等は、各回のコラムに記載しておりますので、詳細は、各回のコラムをご参照ください。
#バックナンバー
第1回【 #01 建設業が脱炭素化を求められる背景 】
第2回【 #02 Scope3排出量と建物のライフサイクルCO2 】
第3回【 #03 建物のライフサイクルCO2をめぐる状況① 】
第4回【 #04 建物のライフサイクルCO2をめぐる状況② 】
第5回【 #05 土木・インフラ工事のCO2排出量算定 】
第6回【 #06 建物のライフサイクルCO2に関する具体例① 】
第7回【 #07 建物のライフサイクルCO2に関する具体例② 】
第8回【 #08 建物のライフサイクルCO2に関する具体例③ 】
第9回【 #09 建物のライフサイクルCO2に関する具体例④ 】
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